脳は一番重要な臓器であるため、
血液中から厳選したものしか取り込まれない仕組みになっていて、
これを血液脳関門といいます。トリプトファンは血液脳関門を通らないわけではないのですが、
他のアミノ酸があるとそちらが優先されます。
トリプトファンは炭水化物を食べてインスリンが分泌され、
ブドウ糖が吸収されるとそれに併せて様々なアミノ酸が脳内に取り込まれますが、
それらが取り込まれるといっしょにトリプトファンも取り込まれます。
つまりトリプトファンは肉、魚など多くの食物に含まれていますが、
脳には取り込まれにくく、その分セロトニンが不足しやすいと言えます。
従って、単に食事量を減らすだけのダイエットは、
脳機能にも影響を及ぼしかねないダイエットとなるので、
セロトニンの働きを理解した上で賢いダイエットをする必要があるのです。
セロトニンでメタボに関連した話題をひとつ。
欧米ではすでに承認になっている
抗肥満の薬剤でシブトラミン(製品名メリディア)というものがあります。
この薬剤はシナプスでのセロトニンとノルアドレナリン
両方の量を増やす薬剤(SNRI:セロトニン/ノルアドレナリン再取込阻害剤と呼ばれています)で、
もともとはパキシルなどと同様にうつ病に対する治療薬として臨床試験が行われましたが、
うつ病にはあまり効果がなく、その代わり食欲を抑える作用があることがわかり、
食欲抑制による肥満治療薬として開発されました。
日本ではエーザイとアボットの共同開発で現在承認を得るための申請中で、
もうしばらくすると医療現場に提供されると思います。
このように同じような受容体にくっつく薬剤でも作用が異なることが多いのです。
これはあくまでも治療薬であり、お医者さんの処方箋が必要となります。
個人輸入などで使っておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、
セロトニンは多くの病態に係わっており、
その分多岐にわたる副作用(たとえば血圧上昇、頭痛、錯乱など)が出ます。
あまり安易に、やせ薬として使わないようにお願いします。
脳の中で感情や精神に関係する中枢組織には、
このセロトニンによって働きがコントロールされている神経が多く分布しています。
セロトニン作動神経ではシナプスでのセロトニン量が神経の働きを左右します。
ところが、多くなりすぎると神経が興奮しっぱなしになるので、
これまた困ったことになるため、シナプスでは絶妙にセロトニンなどの
化学伝達物質をコントロールする仕組みをもっています
(セロトニン再取込作用:一端神経終末から放出されたセロトニンを
神経内に再びくみ上げてしまう)。
うつ病などではこのセロトニン作動神経の働きが鈍っていることがわかってきて、
このシナプスでのセロトニンが減らないようにする薬剤が、
うつ病の治療薬として開発されてきました(パキシル、ルボックス、
ゾロフトなどSSRI:セロトニン再取込阻害剤と呼ばれる)。
またセロトニンは消化管にも多く存在しており、
特に消化管の動きを支配している神経にある
セロトニン受容体を邪魔する薬剤(ゾフランなど)は、
抗ガン剤による吐き気を抑える治療に使われています。
脳血管ではセロトニンが減ることによって調節がうまくできなくなり、
血管が収縮したり拡張したりして頭痛が起こります。これを偏頭痛といいますが、
脳血管に分布するセロトニン神経の受容体にくっついて、
セロトニン類似の作用を起こす薬剤(イミグラン、マクサルトなど)が
治療薬として用いられています。
このようにセロトニンはひとつでも、脳や消化管に分布する受容体のタイプに違いがあるために、
その作用が違ってくるのです。
また神経細胞のシナプスという特別な部位でのごくわずかな
濃度が調節されることにより、その神経の働きが活発になったり、
抑えられたりするわけです。
よく、最近の人たちはストレスなどによりセロトニンが少なくなっているため
キレやすいだとか、セロトニンが少なくなっているためうつ病が多くなっているとか、
あるいはセロトニン合成のもとであるトリプトファンを多く含む食物を摂ると神経が落ち着く、
といった説明をしている本やインターネットサイトがありますが、
今までの解説でおわかりのように、事はそれほど単純ではなく、
もっと複雑なシステムが働いていますし、未知の部分もまだ多いので
今後の研究が期待されます。
ただしそうはいっても、食事での栄養素の取り方で、
脳内伝達物質が増加して脳の機能が影響を受けるという
臨床データもあります(たとえば飽和脂肪酸を多く摂っている人では認知障害の確率が高まる、
とかGABA、グリシンなどのアミノ酸にはリラックス効果や興奮作用がある、など)。
セロトニン作動神経の働きには神経細胞内のセロトニン量も係わってくるため、
脳内のセロトニンを増やすことは重要です。食物やサプリメントの中には、
うつ状態に効果のあるものがありますが(セントジョーンズワートなど)、
これは薬剤と同じようにセロトニン受容体に働く物質や神経細胞での
セロトニンを調節する物質が含まれていて、
脳内セロトニンを増やすと考えられています。
ただし、セロトニンはトリプトファンから作られるからといって、
単純にトリプトファンを多く含む食材やサプリメントを摂れば良いということではありません。
(次回完結)
最近セロトニンダイエットというのがはやっているようですが、
セロトニンについてあまり理解がないままに解説しているサイトもあるため、
今回セロトニンとは?ということで取り上げてみました。
セロトニンは化学名を5-ヒドロキシトリプタミンといい、
5-HTと略します。医学書などには5-HTと書かれることが多いので、
覚えておくと便利です。ヒトを含む動植物に一般的に含まれる化学物質で、
体内に取り込まれたトリプトファンからつくられます。
脳などの中枢神経系や胃とか腸などの消化管系に多く存在し、
またその受容体も多く分布しています。
受容体というのはセロトニンがくっついて作用を起こす、臓器の側にある組織のことです。
この受容体は、細かい違いも入れて現在見つかっているものは11のタイプがあります。
異なるタイプの受容体からは異なる作用が生まれます。
神経細胞にはパソコンなどの回路のように電気信号としてその信号を伝える部分と、
神経細胞同士が突起を出してつながるシナプスと呼ばれる、
セロトニンなどの化学物質を使って信号を伝える部分とから成り立っています。
セロトニンが信号伝達物質である神経をセロトニン作動神経、
ノルアドレナリンという化学物質を使っているものを、
ノルアドレナリン作動神経などと呼んでいます。
(次回に続く)
体が欲しているもの、あるいは好きなものを食べると、脳内のご褒美物質、
エンドルフィンなどが放出されます。
これによって人は一定の食物を食べたがることになります。
それがその人にとっての好物ということになるのでしょう。
おそらく脂肪は体内に吸収されると脳内物質を出させる働きがあるのだろうと推測されます。
たとえばマグロのトロ、しもふり牛肉、フォアグラなど、
脂肪が豊かに入った食材はたいていの人が好きだと思います。
江戸時代以前の日本では獣肉はあまり食されなかったはずです。
ところが明治期以降牛肉などが一般的に食べられるようになり、
肉食のおいしさが知られるようになったわけです。
また第二次大戦後、欧米流の食事スタイルと内容が一般化してくると、
食事中の脂肪量が上がり、1回の食事あたりのカロリー量が一挙に増加します。
1gあたり炭水化物は4Kcalの熱量を発生しますが、
脂肪は9Kcalと倍以上の熱量を発生します。
脂肪量の多い現代の食事はそれだけエネルギー量が高いのです。
和食と洋食のカロリー量の違いを見てみると、
典型的な洋食と和食とではこれだけの違いがあるのです。
カロリーだけから見ると洋食が圧倒的に多いのですが、
食事内容はカロリーだけでは片付かないのです。
炭水化物(糖)、タンパク、ビタミンなどとのバランスもあり、かなり複雑です。
よく低カロリー食が健康食であるかのように宣伝していることがありますが、
一概に低カロリーだから良いともいえないのが、
事を複雑にしている原因でもあります。
万人に効果があるのは低カロリーダイエット。
食事のカロリーと量をひたすら減らして、いどみます。「いどみます」と書いたのはそれほどの覚悟がいるからです。飢餓に打ち勝つ強靱な意志、衰える体力にむち打ちながら運動に励みます。それは、そうちょうど減量中のボクサーのようです。
これはちょっとオーバーな例えですが、前にも書きましたように、飢餓感が強くなるとからだは緊急事態モードになり、入ってきた栄養を何でも脂肪に置き換えようという代謝に変わってきます。その結果、よほど食事内容、タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、微量元素などのバランスを考えて減らさないとただ単に体力が落ちただけで体重は減らない、脂肪は増えたという結果になりかねません。
体重が一時的に落ちたとしても食事をちょっと戻すとすぐにダイエットを始める前、あるいはそれ以上にリバウンドしてしまいます。
このダイエット法はそれこそ管理栄養士についてもらって、細かく食事内容を指導してもらいながら行わないと成功しない方法です。やり方として簡単そうで、ダイエット本にもいろいろ載っているので見よう見まねでやると、多くの場合失敗を繰り返してかえって太ってしまうか、健康を害する結果となります。
いろいろなダイエット法がありそれぞれ個人にあった方法を選ぶことが重要ですが、一番良くないのがいったんすごいやせて、でもやめたとたん一挙にリバウンド、というものを繰り返すことです。これによって体内環境はめちゃくちゃになりますし、ホルモンバランスも崩れてしまいます。
よくダイエット法の宣伝で1ヶ月で5kgやせる、とかありますが、目先の売り文句に惑わされないでぜひ「始める前に長く続けられる方法なのか」、リバウンドに関することも含めて「体の健康を害することがない方法なのか」をよく見極めてから取り組んでください。
メタボリックシンドロームの成因の項でも書きましたが、この病気には「インスリン」(インシュリン)が非常に大きな役割を果たしています。
すなわち吸収されたブドウ糖を筋肉でうまく使えるようにするのもインスリンなら、脂肪をため込むのもインスリンです。
インスリンが過剰に分泌されるとこの脂肪蓄積の作用が強くなります。
たとえば急いで食事を詰め込むと一挙に血糖値が上がり、インスリンが過剰に出ます。あるいは非常に吸収の良い糖分、たとえばブドウ糖そのものを飲んだりしても血糖値は急激に上がり、インスリンが過剰に出ます。
この過剰なインスリンが肥満を悪化させることがわかってきました・・・
早食いの人が概して肥満であるのはこのためです(ギャル曽根は例外です)。
ここでインスリンの出方をコントロールすることにより肥満対策をしようというアイデアが出てきました。ひとつは「ゆっくり食べよう」という指導、もうひとつは「低インスリンダイエット」、究極はアトキンスダイエットです。
「ゆっくり食べよう」は誰にでもできて、結構効果のあるやり方です。低インスリンダイエットは血糖値が急激に上がることを防いで、インスリンの過剰分泌を抑えてやるという方法です。
血糖値が上がることを防ぐために、家庭でできることは野菜、特に繊維が多くカロリーが少ないキャベツなどの野菜をたくさん食べることで、糖の吸収を遅らせる方法があります。
キャベツダイエットとしてはやりましたが、メタボや糖尿病の人にはかなり有効な手段です。
さてこの考え方を推し進めて、糖分の供給源である炭水化物を極端に減らしたのがアトキンスダイエットです。
ロバートアトキンス博士が発表したダイエットプログラムで、血糖値を上げる炭水化物を極端に制限して、そのかわりタンパク質、脂質は制限しない食事法です。
タンパク質、脂質を制限しないことから、肉食の多い欧米ではかなりの人気ダイエット法となりました。体重減少は比較的早く効果が出ますが、脂質過剰になることから、栄養バランスはくずれ、1年くらいの長期で見ると体重減少は通常の低カロリーダイエットと同じになったという臨床試験データもあります。食事内容を元に戻すとリバウンドが強いという報告もあるようです。
おなかがすいた状態、すなわち飢餓感により代謝が変化してダイエットを失敗させる話を書きましたが、これを加速させるのが、太古の昔より備わった、「倹約遺伝子」(肥満遺伝子という場合もあります)といわれる遺伝子です。
日本人はこの「倹約遺伝子」を持っている割合が欧米人に比較して高いため、食べ過ぎるとすぐに脂肪の蓄積が起こって太ってしまう人が多いのです。この遺伝子は一つではなく、今では数十種類の遺伝子が特定されていますが、ひとつひとつ働きが異なるため、全部が解明されているわけではありません。
中でも有名なのは「アドレナリン受容体遺伝子」でこの遺伝子の一部に変化があるタイプの遺伝子(倹約遺伝子)を持っている人はちょっとカロリーオーバーすると太りやすくなります。
このアドレナリン受容体遺伝子はエネルギー代謝に係わる遺伝子で、この遺伝子が倹約型であるとエネルギー代謝が落ちて、基礎代謝が低くなります。すなわち車でいうとアイドリング時のエンジン回転数が非常に低いのと同じです。倹約遺伝子とか、肥満遺伝子にはいろいろなタイプがあります。日本人はそのような遺伝子を持っている割合が欧米人に比較して高いのです。
ちょっと前に遺伝子タイプ別に体型が決まっていて、体型別に肥満対策を考えましょうという、「マトリックスダイエット」がはやりましたが、相当な数の遺伝子が係わっており、ことはそれほど単純ではありません。
このダイエット法にしても結局は、タイプ別になってはいますが、基本はカロリー制限です。
カロリー制限を遺伝子タイプ別に如何に効率的にやるかということで、かえって複雑になってしまい、わかりにくいという批判も多かったようです。
ちょっと話が横道にそれてしまいましたが、肥満はこのように多様で複雑です。ですから備わった遺伝子を、ときには働かせないようにしたり、ときにはだましたりすることが、肥満対策には重要となります。
世の中いろいろなダイエット方法の情報が氾濫しており、その情報の多さに混乱することも多いと思います。ここでそれらを整理してみたいと思います。
まず一般的なのは「摂取カロリー量が消費カロリー量をうわまらないようにする」、低カロリーダイエット・・・。
この場合、摂取カロリー全体に占める脂質のカロリーが多いのが普通ですので、まず脂質の摂取を控えるということになります。
その上で、さらに炭水化物を減らして、総カロリー量を減らすという「超低カロリーダイエット」。
これらのダイエットは全体のカロリー量を把握できれば比較的簡単に実行できますので、通常病院などの食事指導というとこのタイプのダイエット法になります。
ところがおなかは減るし、食欲の本能に勝つのは禅僧でもない限り困難なことで、たいていは1、2ヶ月で脱落します。それに単に食事量を減らしただけでは栄養的にも偏りが出てきて、極端になると健康問題を引き起こす可能性があります。
そこで出てきたのが、食事量を減らしてその一部を低カロリーの代替食品でおきかえたダイエット法。
これですと、たとえばお昼ご飯の代わりにこの食品を食べることで、1食分のカロリーをカットできるのと、多少飢餓感を抑えられるというメリットがあります。今世の中で一番出回っているダイエット法はこの方法です。代替食品は低カロリーで飢餓感を少なくできれば何でも良く、たとえばこんにゃくダイエットや寒天ダイエットというのもはやりましたね。
また有名なマイクロダイエットも基本的にはこのタイプです。ただこんにゃくや寒天と違うのは、栄養素も考慮されているということでしょうか。医療機関向けのマイクロダイエットもあり、このタイプのダイエット方法の中では信頼性は高いといえます。
実は私もこのタイプのダイエット法を試したことがあります。体重は多少減りましたが、1ヶ月程度で挫折しました・・・ひとつの理由はやっていてぜんぜん楽しくないのです。
たとえ1食分とはいえ、他の人が楽しそうに食事をしているのを横目で見ながら、パックに入った飲料を飲む。そのとき気がついたのは食事は単に栄養補給のためだけではないということです。
食事をするという行為自体が大きな意味を持っているということです。
もうひとつはやはり時間がたつと次の食事までにおなかがすいてしまうことです。この飢餓感を覚えるということはダイエットのひとつの落とし穴なのです。
おなかがすいた状態が長く続きますと、体は緊急事態だと認識します。
そうしますとわずかでも入ってきた食糧を無駄にしないように、体はいろいろなホルモンを動員して吸収効率を高めます。
さらに少しでも残っている糖や脂肪があればともかく脂肪組織に溜め込もうとします。
低カロリーダイエットをやって経験された方も多いと思いますが、最初は順調に体重が減っていたのにあるときまったく減らなくなります。それどころか食べる量は増えていないのに体重がむしろ増えてしまう、という現象も起こってきます。このメカニズムがダイエットを行うときに一番気をつけなければいけない落とし穴です。
ということでこの食事を減らす低カロリーダイエットは長続きさせるためには強靭な意志の力と精神力が必要とされ、また一旦中止するとほとんど必ずリバウンドがくることです。
そうは言ってもカロリーオーバーで痩せるはずもなく、低カロリーダイエットは基本ですから、以上の難点をどう工夫すればよいかということが効果を上げるためのダイエットのポイントとなるのです。このポイントについては次回以降でお話します。
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